私は猫
私は固まってしまった。
「そ、そんなこと」
「ないわけないでしょ。いいじゃない。ホステスが誰かを好きになるって、誰が悪いことだっていった?トラブルは確かに多いけど、ヒナの恋路ならママだって応援してくれるよ」
私は何も言えなかった。
南さんに感じたときめきと、京に感じたのは違う。
憧れ、尊敬、胸が苦しくなるような鼓動、
安心、愛情、懐かしい昔のきれいな過去、
私はどちらかを切り離す勇気がないんだと思う。
ずるい猫。
「私はどうしたらいいんでしょうか」
分かり切ったことを、何で人は確認したがるんだろう。
自嘲気味の質問が頭に浮かんだ。
「何ピュアなこと考えてるの。私この世界にいて思うけど、そんなのくだらないよ。自分の思うままに生きなきゃ」
「菜々子さん」
「自分のしたいことしたら、おのずと道は見えてくるはず。もうさ、世間体とか聞こえとかヒナは気にしすぎだよ」
菜々子さんは呆れたように肩を下ろした。
「ヒナのその気持ちが合理的理性でどうにかなるものなら、それは恋じゃないよ。どうしようもできなくなるのが、恋だよ。そうでしょ」
私はうん、うん、と頷きながら聞いた。
合理的理性
その言葉がやけに頭に残っていた。
次に南さんに会うのが私は怖くなってしまっていた。
私は窓を開けて、頬を撫でる生ぬるい風に当たった。
