寂しがりやの猫
「あ、唇 ちょっと 切れてる」

私は そっと田村の唇に触れようとした。

「あ、大丈夫です… 」

田村に制止される。


「ごめんね」


「中河原さん、早くちゃんと ボタン留めて下さい。さっきから 見えてます…」

「あっごめん!」

私は 慌てて 部屋着のボタンを留めた。


「あの…データ貰えませんか。 俺 今から 社に戻らないと」


「あ、はい!」

私は用意しておいたデータを渡した。


「田村。私のこと軽蔑したよね」


― もう駄目だ。嫌われたよな…


私は 下を向いた。


「軽蔑なんてしないですけど… 」

「……」


「ちょっと ショックでした。 そんなに寂しかったなんて」

「うん… 」


私は うなだれた。


「じゃあ 俺 行きますね」


「うん。ありがと」

田村は パタン… とドアを閉めて出て行った。
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