寂しがりやの猫
「今日は ありがとね、愉しかった」


最寄り駅に着いて降りようとすると、田村も降りて来た。

「送りますよ」


「えっ 大丈夫だよ。明日も仕事でしょ」

私は 慌てて 田村を電車に押し戻そうとしたが、あっという間に電車は 発車してしまった。


「また 次は いつ逢えるか判らないし」

田村は 私の手を握ってくれて、二人でマンションまで歩いた。


なんだか 変に意識してしまう。


― お茶でも、とか言ったほうがいいのかな…

なんか抱いてくれって せがんでるみたいで嫌だな…


そういえば、前に田村が来たときはシュウが居て、私、田村にちょっと胸見られたよな…

「あの、中河原さん」

「え?」


「奈都さん…って呼んでもいいですか?」


「え?あ、うん!もちろん!奈都でもいいよ」


「それは ちょっと嫌です」

「え?なんで?」


「仲澤課長も、あのセフレの人も、多分 今までの奈都さんの彼氏は みんな奈都さんをそう呼んでいたでしょう」


「あ、うん…」


「だから 嫌です」

田村は きっぱりと言って、また強く手を握った。


「妬いてる…?」


「はい。妬いてます」

― 可愛い!


「ばか、田村。昔のことなんかどうでもいいじゃない」

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