樹海の瞳【短編ホラー】
第八章 月光
 その日は、月光が木々の間から差し込んでいた。

 黛はひとり、大きな籠を背負って、歩いていた。ことある毎に休憩し、石の上に腰かけて過ごした。
 大きな籠からは、赤いニット生地が、チラチラと見えた。

 黛は遺留品を見つけると、ハサミでつまんで、背中の籠に放り込む。手慣れた様子で、次々と拾った。

 黛が異変に気付いたのは、ちょうど霧が出てきたころであった。赤いニットを着た若い女の腕が、黛に寄り掛っていた。首筋には、吐息を感じる。
 黛は振り返らなかった。そのまま、何食わぬ顔で、作業を進める。
 時に腰かけ、時に立ち上がり、腰を折って拾う。単調な繰り返しを、何回も何回も続けた。

 月明かりで、樹海を歩ける夜は少ない。月明かりが、最も死者を優しく照らす。

 黛は、至福の時を過ごすように、夜の徘徊を楽しんだ。誰にも邪魔はされない。黛だけの空間なのだ。
< 15 / 21 >

この作品をシェア

pagetop