樹海の瞳【短編ホラー】
 志津は、白骨死体であった。
 しかし、そこに、頭蓋骨はなかった。

 赤いニットを着たまま、枯れ葉にまみれて地面と同化していたのを、黛が見つけた。
 遺留品の免許証から、志津だと分かった。
 黛は丹念に骨を拾った。そして、あたりを散策し、頭蓋骨を探したが、どこにも見当たらなかった。

 後になって気付いたことだが、奇跡的にも、志津の携帯電話が、土に埋まっていた遺留品であるエナメル製のポーチの中で生きていた。
 志津は、携帯電話に残した動画の中で、殺される、怖いと訴えていた。
 そして、愛する人に、愛を語り、そして殺されるだろうと。


 携帯の中の志津は語る。

 だから私は、携帯を埋める。
 何かを残しておきたいから。
 樹海の民家の廃屋に手を入れ、人知れず貴方と逢い引きし、そのまま離れられなくなった。
 私が貴方を引き留めた時、貴方となら、死んでも構わないと思った。
 でも、その時から貴方の態度は変わった。

 私を恐れている。
 ねぇ、私が怖いの?
 私が嫌いになったの?
 どうして。
 どうして。

 カメラを構えた貴方。
 ファインダー越しの貴方の笑顔は消えた。

 あのナタで、私の首をはねる気なの?
 貴方がいつも持ち歩いている、トレッキング用の鋭い刃物で。


 志津の言葉が、耳元で囁く。黛の嘘ぶいた態度も、虚しい道化だ。

 黛はまだ見つけられていない志津の頭部を求めて、その後も、月光の夜にさまよい続けている。

 来る日も来る日も、何かが足りないような気がした。
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