樹海の瞳【短編ホラー】
 男は思いに耽り、そこでひと先ず、蛇が絡まったような装飾の施された万年筆を置いた。

 私の名前は黛(まゆずみ)健という。

 何かとり得がある訳でもない、退屈な男である。


 飲みかけの珈琲が、粘性を帯びていた。

 窓の外は霧で立ちこめ、在る筈の木々が全く見えない。

 こんな日は玄関が騒がしくなるものだ。

 樹海に足を踏み入れた旅行者が迷い込みやすい。


 黛は新しい珈琲を丹念に入れ直した。

 この樹海の一軒家に、黛はたった一人で住んでいた。

 黛は再びペンを取り、筆を走らせた。倫理観を募らせた文章を、目の動きで追っていた。
 苦い珈琲が、単調な意識を朦朧とさせなかった。


 暗くなった頃、思った通り玄関が騒がしくなった。男性二人組の旅行者が訪ねてきたのであった。
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