春、恋。夢桜。
古めかしく、小さな店内へ足を踏み入れる。


そこは以前、小さすぎると批難した本屋だった。



まだ時間が早かったらしくて、運良く店は開いている。

俺は、急いで店内を回ると、目的の物を見つけて急いで会計を済ませた。


それは、いつからその場所に積んであったのかわからない

少し埃をかぶったスケッチブック。


麗華の希望を叶えたかった。

スケッチブックを持って行けば、麗華に会える気がした。


俺は片手でそれを抱えると、また急いで走りだした。


喫茶店、ガソリンスタンド、コンビニ、……

1カ月の間に見慣れた景色が、今は全く違うものに見える。


それに、何故だろう。


久しぶりに感じたスピードは心地の良いものであるはずなのに、胸が苦しくて悲しくなってきた。


普段はあまり通ることのない田や畑の間の道を、空気がいっぱいになった肺を抱えて走る。

視界に入ってくる鮮やかな緑色が、妙に目に残る。


もう、すぐそこにいつもの並木があるのに、なかなかこの距離が縮まない。



やっとの思いで並木道に着いた頃には、足の感覚もあまりなくなっていた。



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