春、恋。夢桜。
それでも、足を止めるわけにはいかない。


出来るだけ早く、麗華の所へ行きたい。


俺は、攣りそうなくらい重たくなった足に鞭を打って走り続けた。



やっとの思いで月美丘を登り切ると

目の前には何もない芝生だけが、当たり前のように広がっていた。


そして、桜があった辺りを囲むように、丘の上には何人かの人がいる。


俺は、既に限界を訴える自分の足をゆっくりと動かした。


視界には、いつもあったはずの桜が入って来ない。


それだけ。

それだけだ。


それなのに、体の1部が足りないような、気持ちの悪い感覚を抱く自分がいる。


「おい、君。こんな所に何の用だ?今は忙しいから、部外者はどこかへ行ってほしいんだが」


丘にいた人のうちの1人が、俺の方を向いて言った。


丘の爽やかさとは不釣り合いな黒いスーツを着て

ひげをしっかりと生やしたその男には、どこか見覚えがある。


「あれ?君、もしかして前もここにいなかった?」


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