春、恋。夢桜。
ドア越しに聞こえてくる梨恋の声は、少し震えているように思う。


それでも、俺はそれをそのまま聞き流すしかなかった。


ベッドに寝転んで、天井を見上げる。

すっかり薄暗くなった室内が、少し心地よくも思えた。


そのまま何も反応を返さないでいると

とん、とん、とリズミカルな音が遠ざかっていくのが聞こえる。


その音から、少し淋しさを感じたのは気のせい……


でも、今の俺にはどうしようもない。


もちろん、何も反応をしないことに、少しも胸が痛まなかったわけじゃない。



でも、今は何もしたくない。



歪んでいて、情けない考え方かもしれないけど

そんな思いを消す気にもなれなかった。
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