春、恋。夢桜。
自転車で、まっすぐの道を駆け抜けた。


4月も終わりに差し掛かった今は

寒いような、暑いような微妙な気候が続いてる。


生ぬるい風を鬱陶しく思いながら、俺はひたすらペダルをこいだ。


住宅街に入った辺りで、まっすぐだった道は入り組み始める。

すっかりと通りなれた道をさっと通り抜けて、俺は家に到着した。


そして、そのまま自転車を停めて、家に入る。


梨恋が先に帰って来てたからだろう。

リビングからはテレビが話す声が聞こえる。


でも俺は、何も言わずに2階へ向かう階段を登った。


「……い?響兄!?帰って来たの?ねぇー!?」


足音でも聞きつけたのか……?


俺が自分の部屋のドアを閉めた頃に

梨恋が階段を駆け上がって来る音がした。


「ねぇ、響兄……?足音もしたし、靴もあったから……いるんだよね?」


梨恋の声が、少し震えているような気がする。


「あ……、あのさっ!算数でわからないところがあるんだけど、響兄が教えてくれない?」



それが、さっきまでテレビを見てた人間のセリフかよ……


思わず出そうになったそんな言葉を

俺は静かに飲み込んだ。
< 179 / 237 >

この作品をシェア

pagetop