春、恋。夢桜。

【一】

   

「母さん、ちょっと近所見てくるから」


2階にある自室を出て、リビングにいる母親に声をかけた。


まだここへ来てから数時間しか経ってない。

それでも、広いリビングにはしっかりと家具が設置されていたし、壁にはいくつか、絵まで飾ってあった。


透明の花瓶を手にしながら、母親が振り返る。



「良いけど、どうして?部屋の片付けは終わったの?」

「あぁ、だいたい終わったよ。ちょっと周り見てきて、ジョギングのコースを決めたいからさ」

「はいはい。気を付けて行ってくるのよ」


呆れたようにそう言うと、視線はすぐ、花瓶に戻された。


「いってきます」


もう聞いてないだろうと思いながらも
一応そう言ってから玄関へ向かった。


まだ整理されてない段ボールの隙間に体を埋めて、靴を履く。


すると、背後から大きな声がした。
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