春、恋。夢桜。
当たり前のことながら、それは俺には全くわからない感覚だった。


きっとそれは、麗華だって同じだ。


ただ、そんな奇妙な現象が、この時間の終わりを静かに、そして鮮明に表わしてる。


いくら笑い合っても、どうしても隠しきれない不安が

麗華の表情に薄らと浮かんでるような気がする。


「そうか……。じゃあ、ここまでこの夢を持たせてくれた紅姫に感謝しないとな。結構長い時間だっただろ?」


「あぁ。本当じゃな。やっぱり、紅姫様は最高のお方じゃ。

長い髪に冠がよく似合っておって、赤い着物もものすごく美しいんじゃよ。しかも見た目も、若くてすごく綺麗なんじゃ。優しいしのう。

わしも、あんな風になってみたいものじゃ!」


わざと明るい方向へ会話を進めた俺の思いに気づいたのか

麗華も元気そうな声でそう言った。



気のせいか……?



麗華の瞳には、薄い水の膜が出来上がってるようにも見える。


こんな麗華、見たことない……――――


俺には、どうしたら元の笑顔に戻してやれるのか、わからなかった。


「麗華はそのままで良いだろ」

「響……?」

「まぁ、もっと静かで落ち着いてくれてて、生意気な部分がもう少し抑えられてたら……何も文句はないんだけどな」
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