春、恋。夢桜。
またからかわれるのか?


そう思って視線を合わせると、麗華はびっくりするくらいに優しい表情で俺を見た。


「しっかりやるのじゃぞ、響。わしも、わしにできることを頑張る」

「あぁ、頑張ってくれよ。……信じてるから」

「任せておけ!」


そこまで言うと、麗華はすっと俺に近づいてきた。


何も言わずに、空気に身を任せてみる。



さっきよりもゆったりとした

再びゼロになった2人の距離感が、心地好い。


「またな」

「あぁ。またな」


離れた唇から漏れた言葉はとても簡単で、軽かった。


その言葉と共に見た麗華の笑顔が、俺の頭の中を支配する。



暗くて、それでいて明るい空間での不思議な記憶は、そこで途切れた。
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