春、恋。夢桜。

【二】

 


ピストルの鳴った瞬間が、好きだった。


ぼやっとして、視点が思うように定まらなかった目の前が

その瞬間に変わる気がするんだ。


目指すゴールを中心に、同心円を描くように、世界が鮮やかに色付く。


そうやって、真っさらな世界に飛び出す感覚が好きだった。


風が、俺を避けるように吹き飛んでいく感覚が好きだった。


時間にしたら、それはたったの数秒で……


でも、その数秒は俺にとって掛け替えのない数秒で……



数分で、数時間だった。





それでも、高校2年の春。


桜がまだ満開の頃に、俺は、そんな世界を、失った。

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