春、恋。夢桜。
 

俺が本格的に陸上を始めたのは、中学に入学してからだ。


それまでは、運動会や体育の時くらいでしか

自分と誰かの走りを競ったことはない。


そんな俺が、初めてフォームを整えて、体を鍛えて、スパイクを履いて……

そうしてすべてを1つずつ整えていったら、タイムがどんどん短くなった。


何かの魔法みたいだった。


もちろん、それに比例するみたいに、俺は走ることが好きになった。


走って、記録を出して、誉められて、また次を目指す。


その繰り返しが、俺の生活の中心になって

生活を構成していくまでにはそこまで時間もかからなかったように思う。



高2の春。


その時期に行われた大会で、俺は2年生の中で唯一の選手に選ばれた。


俺自身、その話を聞いた時は驚いたし、嘘なんじゃないかと疑った。


でも、1番驚いて、嘘だと疑ったのは



俺じゃなくて、同じ部活の同級生だった。

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