彼女が声を出さない理由(わけ)
戦国の時代。

戦を繰り返す世において、男児は喜ばれ、女児は成長しても政略の道具にしか使われなかった。

門外不出の武術の家系である城山家ならば尚の事。

流派を継ぐには男子に越した事はないが、そう都合よく男ばかりが生まれる事もなく。

止むを得ず女子が、その業を継ぐ事もあった。

しかしながら、女が戦場に立つ事は、愚弄の対象とされる事もある。

腕が立っても、その身が女であるだけで武人として扱われない事もある。

城山の女武芸者は、戦場では男装する事が通例であった。

着物は男物を纏えばいい。

膨らむ胸は晒しで押さえつければいい。

顔は汚してしまえばいい。

だが声は。

高く透き通った声だけは。

どれ程喉を潰そうと、きつい酒を飲んで嗄らそうと。

声だけはいつまでも誤魔化しきれるものではなかった。

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