男友達

あいつのためか自分のためか


 公園へついて数分後、彼女はやってきた。

 いかにもおとなしそうな、いわゆる普通の主婦に見える。不倫なんてしなさそ

うに見えた。



 「あなたね、電話してきたの。卓也君は?」


 「彼は来ません。私が、話があるんです。」


 「な、何かしら?」


 少し動揺しているようだ。


 「単刀直入に言います。別れてください。今すぐに。」


 「どうして?」


 「結婚されてるんでしょ?」


 「そうよ。でもね、結婚してるからといって、幸せとも限らないし、うまくい

ってるとも限らないのよ。旦那とも、できれば別れて、ゆくゆくは卓也君と一緒

になりたいと思ってるの。」


 「あなた、そう言って、喧嘩した時だけ都合よく卓也に言いよって、うまくい

ってるときはいってる時で両方とうまくやっていきたいとか言ってるらしいじゃ

ないですか!私、そういうの許せない!」


 思わず声が荒ぶる。


 「あなた、卓也君とどういう関係?」


 「友達です。」


 「じゃ、関係ないわね。帰るわよ。ほっといてくれる?私たちのこと。」


 「ほっとけません!いつも明るくて陽気で、こっちが励ましてもらうのに、あ

んなに元気がないなんて。卓也をあんなに苦しめるなんて。許せない。」


 気がついたら、泣きながら訴えていた。



 「泣いてるの?…卓也の事、好きなんでしょ?本当は。」


 「えっ、ちがっ…卓也とは10年も仲良くやってきた友達で、大切な人だから。

あなたは泣かないんですか?こんなこと言われて。卓也が迷惑してるとか言われ

て。」



 「泣かないわ。腹は立つけどね。分かったわ。もういいわ。卓也君、優しいし

心のよりどころではあったけど、ホント言うと、旦那と別れて卓也君と一緒にな

ってもうまくやっていく自信なかったから。不倫、だからうまくやっていけたの

かもしれないと思ってるわ。」


 「あなた、本当に最低ですね。人の気持ちなんだと思ってるんですか?」



 「あなたも結婚したらわかるわ。私の気持ち。多かれ少なかれ、世の中の主婦

は、そういう願望があるんじゃないかしら。じゃ、帰るわ。卓也君には、もう連

絡しないからって伝えて。それから、ありがとうってね。」


 「それからもうひとつ。あなた、それ、好きってことよ。素直になったら?」


 「え?」


 と問いかけたけど、返事のないまま暗闇の中へ歩き去ってしまった。

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