男友達

 彼女は、最初のうち卓也に夢中で、旦那とも今すぐにでも別れたいと言ってい

たけど、悩みの元であった旦那の浮気疑惑が晴れると、卓也も好きだけど、旦那

ともうまくやっていきたいと言うようになったようだ。

 しかし、また、些細なことで喧嘩すると、旦那とは別れる。卓也が一番だと言

ったりするらしい。そのたびに卓也は翻弄され、かき回され、くたくたになって

いるようだ。


 「ねえ、前も聞いたけど、好きなの?その人のこと。」

 
 「…わからないよ。もう。今となっては好きじゃなかったのかもしれないな。

相談に乗ってるうちに、情が移ったってのが正解かな。」


 「じゃ、別れなよ、すっぱり。」


 「それができれば悩んでないから。そう思ってさ、一回、夫婦の仲が順調そう

な時にそれとなく言ったんだよ。もう、合わなくてもやっていけるねってさ。」


 「で?」


 「そしたらさ、彼女、逆上しちゃって。かわいそうだから付き合ってたの?バ

カにしないでってね。そこいらの物ひっくりかえしちゃって大変だった。」 



 「で、どうしたの?」


 「どうもしない。そのまま今に至るよ。」


 「別れたいの?」


 「そうだね。このまま行ったら、彼女か、彼女の旦那に殺されちまうよ。」


 「そっか。」


 「私。怒った。ちょっと、電話かして。」


 卓也の携帯を奪い取ると、リダイヤルの件数の一番多い番号にかけた。たぶん

これだ。


 「はい。もしもし。」


 卓也と思ったのか、明るい声が聞こえる。


 「あの。卓也君のことで話があるから、出てこれませんか?」


 電話の主が卓也ではなく、知らない女でびっくりしているようだ。


 「ちょっと話があるの。」


 「…わかりました。卓也君はそこにいるの?変わってくれる?」


 「ダメです。〇〇公園に9時に来てくださいね。」


 そう言って、返事を待たずに切った。


 隣では、卓也がぽかんと私を見ている。



 「私が話をつける。友達として。そんないい加減なの、許せないの。」


 「ああ。うん。よろしくお願い…するわ。」


 まだあっけにとられてる卓也を部屋に残し、私は鞄をつかむと、約束の公園へ

向かった。
 
< 12 / 18 >

この作品をシェア

pagetop