【短編】message
僕らはあの川辺にいた。

「ここは・・・」

「そう、君も知っていると思うけど、犯人が捕まった場所だよ。」

「じゃあ、もしかしてだけど・・・ここにランドセルが埋まっていたのね」


彼女は虚ろな目で、揺れる水面を眺めている。

忘れたい記憶を僕が無理やり引きずりだしてしまった。


「きっと、ここだと知ってたら君は来たくなかったと思う。ごめんね」


いいのよ、と言って真美は弱々しく微笑む。

「こっちに来て」


力の入っていない彼女の手をぎゅっと掴んで、優しくひく。

よろよろと足をもつれさせながらも彼女はついてくる。

「美奈ちゃんからの最後の贈り物だよ」

僕らの目の前にあるのは・・・







―朝顔の花

青紫色がこちらを向いて優しく笑っている。

「これがあの子の贈り物」

「君と仲直りしたかった美奈ちゃんがあの日習ったのは、先生の考えたおまじないだったんだ」

「おまじない?」

「朝顔の花言葉を教えてあげたんだ。愛情、そして明日もさわやかに」


「明日もさわやかに・・・。大好きな君とまた明日をさわやかに迎えれるようにって、先生が朝顔の種をくれたんだ。一緒に育ててみなさいって」


―『だから、美奈ね、これを育ててお姉ちゃんと仲直りするの』―



真美は朝顔の前にしゃがみこんだ。

「ごめんね。ごめんね」

何度も何度もそう繰り返した。

君は悪くない。


君は悪くないから。


僕は心の中でそう叫び続けた。
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