【短編】message
ランドセルの中
地中に埋められた種子
這い出す足もなければ、土を掘る手もない
それでも花を咲かそうと根を伸ばす
やっとの思いで地面から、生まれた小さな新芽に
導かれるように添え木がさされ
『あたしはここにいるよ』
倒れてしまわぬように、しっかりとツルを結び
太陽のような花を咲かせた
奇跡という言葉を僕は信じてみたくなった。
己を死に追いやった犯人を憎むわけでもなく
姉を恨むわけでもなく
ただ、伝えたい言葉。
それだけのために美奈はこの世にとどまっていた。
新たな種を育み、三度の夏を生きていた朝顔。
僕は美奈のいた路地を歩く。
夏休みも中盤を過ぎ、肌をかすめる風はすっかり涼しくなっていた。
電柱にそっと右手で触れる。
青々と生い茂っていた木々も、鮮やかさを失い静かにただずんでいる。
太陽の光を跳ね返していた、葉もその生命力を紅く失い色づく準備をしていた。
もう『声』は聴こえない。
どんなに耳を澄ましても。
『お兄ちゃん…』
地中に埋められた種子
這い出す足もなければ、土を掘る手もない
それでも花を咲かそうと根を伸ばす
やっとの思いで地面から、生まれた小さな新芽に
導かれるように添え木がさされ
『あたしはここにいるよ』
倒れてしまわぬように、しっかりとツルを結び
太陽のような花を咲かせた
奇跡という言葉を僕は信じてみたくなった。
己を死に追いやった犯人を憎むわけでもなく
姉を恨むわけでもなく
ただ、伝えたい言葉。
それだけのために美奈はこの世にとどまっていた。
新たな種を育み、三度の夏を生きていた朝顔。
僕は美奈のいた路地を歩く。
夏休みも中盤を過ぎ、肌をかすめる風はすっかり涼しくなっていた。
電柱にそっと右手で触れる。
青々と生い茂っていた木々も、鮮やかさを失い静かにただずんでいる。
太陽の光を跳ね返していた、葉もその生命力を紅く失い色づく準備をしていた。
もう『声』は聴こえない。
どんなに耳を澄ましても。
『お兄ちゃん…』