春待つ花のように
『ノアルという男を捜している。知っているか?』

 冷たい視線に、面倒くさそうに言う役人の態度にイブが軽くあしらった。スラムでは、ノアルは英雄だ。

 彼がいなかったら、今のような仲間が協力しあえるようなスラムが出来ていなかった。

 役人が不機嫌になるのもわかる。何処に行っても、ノアルの存在が掴めないからだろう。

 スラムにいる人間たちは普段から役人や貴族に馬鹿にされ、冷たく扱われている。

 そんな彼らに、自分たちの英雄を差し出すようなことはしない。

「ローラ、ノアルの居所、知ってる? 昨日から帰ってこないからさ」

 イブが心配そうに言う。日中に定食屋を開店しているローラとイブ。

 今はその店を閉め、夜の酒場の開店にむけて準備をしていた。汚れた皿やコップ、鍋を洗っているのはローラ。

 酒と一緒にだすおつまみを作っているのがイブだった。同じカウンターに並んで立っている2人。
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