春待つ花のように
「何?」

「ローラさんはこのことを知っているのですか?」

 ノアルの顔が固まる。その表情を見て、カインは『彼女が傷つく』とそう思った。

 彼女は何も知らない。ただノアルに、他の女性がいるかもしれないと勝手に思っているだけだったのだ。それでもローラはノアルと一緒にいることを選んだのだ。

 それ程、彼に魅力があったのだろう。羨ましいとカインは思った。

「今回のことで俺は彼女までも傷つけてしまうのかな」

「そう…かもしれませんね」

 ノアルがレイの婚約者と密会していた…そんなことを彼女が知ったらどんなにショックを受けるのだろうか。

 カインは胸が苦しくなる。彼女のことを想うと、何もしてあげられない自分が悔しい。

 自分にはやるべきことがある。彼女をそれに巻き込むわけにはいかない。

 彼女の幸せを願うなら、このまま見守るのが正しいのだと自分に言い聞かせるカインだった。














「ノアル…何したのかね」

 イブの質問に食器を洗っているローラの手が止まる。

 昨日の午後から、大勢の役人がスラムの中を徘徊している。この店にも来た。
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