春待つ花のように
「あの女って、もしかしてテーラ様…?」

「そうよ! そんなことも知らないでこの本を持ってたの? あの女から貰ったんじゃないの?」

「あ、はい…まあ」

 曖昧に返事をするマリナ。

「ああ、気分が悪いわ。その本、処分しておいて頂戴」

 レティアはキッとマリナのことを睨むつけると、そそくさと部屋からでて行ってしまった。

 一人になるとマリナは椅子の上に置いた本を手に取ると、愛おしそうに見つめる。

 この本は、ノアルの母親が大切にしていたという本。でもレティアは、この本をテーラのだと言った。

 ノアルはもう何年も母親と会っていないと…。ということは、テーラはノアルの母親?

 彼は自分の母親が宮殿にいたことを知っていたのだろうか。そしてロマの側室だったということも承知していたのだろうか。

 それとも何も知らずに、一人でスラムで生活していたというのか。

 マリナは本を抱きしめると、瞳を閉じた。

「ノアルに会いたい」













「カイン、最近考え事ばかりしてるわね。大丈夫?」

 薬屋のカウンターを挟んでアンジェラが話しかけてくる。カインは顔を上げると、にっこりと彼女に微笑んだ。
< 160 / 266 >

この作品をシェア

pagetop