春待つ花のように
「入るわよ」

 ノックも無く、レティアが扉を開けると部屋の中に入ってきた。カインはサッと身を引くとレティアに頭を下げる。

「あら、新しい人?」

「カインと申します」

 カインが名乗ると、レティアはフンと鼻を鳴らす。

「確か、ゼクスの知り合いだとか…まあ、いいわ。それよりゼクスは?」

 レティアは不機嫌そうに扇子を扇ぎながら、マリナに質問する。彼女もここしばらくゼクスには会っていない。居場所を聞かれても、困ってしまう。

「これ? 貴女、まだ捨ててなかったの!」

 テーブルの上に置いてある本に気づいたレティアは目を吊り上げると、本を取ろうとする。

 カインがチラリとマリナのことを見ると、彼女は『あっ』と小さく叫んでいた。
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