春待つ花のように
 マリナは黙々と作業をしているノアルの背中を見つめた。

「ノアルから貰った本、少し読んだの。王子が父親の失態で命を狙われながらも愛しい人と出会う…貴方が恋愛物の本を読んでいるとは思わなかった」

「母が大切にしていた本だ」

「お母様が…いいの?」

「母とは10年も会っていない。今は生きているのかさえわからない」

 ノアルの冷たい口調にマリナは何と言葉を続けたらいいのかわからなくなった。

 彼はどんな過去をもっているのだろうか。母とは別れ、スラムで生活をしている。それは一体、どんな毎日なのだろうか。

「ねえ、ノアルはどっかの国の王子だったりしないの? それで私をここから連れ出してくれるの! ロマンチックじゃない?」

 マリナは暗い空気を一掃しようと話題を変える。しかしノアルは手を止めると、怖い顔をして彼女のことを見つめた。

「…私、何か悪いこと言った?」

「いや、恋愛小説の読みすぎなあんたに軽蔑したんだよ」

「何それ! 酷い人ね」

 ノアルは鼻で笑うと、さっきまでの冷たい表情は消えた。

 食堂の横にある花壇の手入れが終わったノアルは、ゆっくりと立ち上がると背筋を伸ばした。
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