春待つ花のように
「どうして?」

「ゼクス様に知られる…」

 マリナはニッコリと微笑むと、ドアを指差した。

「鍵をしてあるから、入ってこれないわ」

「え? 鍵なんかしたら余計怪しまれるだろ!」

 ノアルの動揺した顔を見た彼女は、声を出して笑い始める。

「大丈夫よ。鍵はしてないわ。それにゼクスには買い物を言いつけてあるの。今日は少しくらい弾けてもわからないわ」

 マリナはそう言うと、ノアルの胸に顔をつける。この時間が一番幸せ。

 ノアルと互いの体を触れ合うようになってから、どんどん自分は貪欲になっていく。

 彼に触れたい、彼に触ってもらいたい。キスだけでは物足りない。もっと他のこともしてほしい。

 でも彼はキス以外はしてくれない。仕事があるから、ゼクスに見つかるから…いろいろな理由を言って帰ってしまう。

 今日はどうだろうか。ゼクスには街まで買い物に行かせた。きっとすぐには帰ってこない。それでもノアルは自分には触れてこないのだろうか。

「首に痣がある…」

 ポツリとノアルが呟く。マリナはビクッと体を硬直させた。

「それは…」

 レイがつけたものだろう。マリナはレイとの情事を思い出した。首を噛み付かれたのを覚えている。

 マリナは目を閉じると、首を横に振った。
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