春待つ花のように
「言いたくないなら、話さなくていい。ここに居て気持ちが落ち着くなら好きなだけいていいよ」

 ノアルはそう言うと、ベッドから降りて棚の引き出しを開ける。確か一番下の引き出しには毛布を仕舞っておいたはず。

 ノアルは毛布を出すと、ローラに手渡した。

「ベッド、使うか?」

 ノアルの質問に、ローラは顔を真っ赤にして首を思い切り振った。

 彼は軽く笑うと、『そうか』と一言呟き、ベッドに横になった。

 ローラは微動だにせずに座っている。一体、どうしたというのだろう。

 いつもなら、物を借りにきたり、店を手伝って欲しいと言いにくるくらいで長時間、部屋にいることなどないのに。

 ノアルは不思議に思いながらも、彼女に背を向けたまま瞳を閉じた。そろそろ寝ないと、明日の仕事に影響してしまいそうだ。

 毎日が体力勝負。眠いなどと言っている暇はない。

「寝るの?」

 申し訳なさそうに言い出すローラ。

「ああ。明日はレイ様が夕方に来るらしくて、庭の手入れを念入りにしないとだから…」

 レイ。嫌な名前だ。自分で発音しておきながら、彼の顔が頭に浮かぶと苛々した。

 明日来るということは、マリナは明日彼に抱かれるということになる。そう思うと、胸の奥がムカムカしてくるのだった。
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