春待つ花のように
 だからといって自分の力では前の生活には戻れない。家族のことや国のことを考えるとレイには逆らえない。

 でもノアルに出会って自分の人生が変えられるかもしれない。そう思った。

 たとえレイと一生添い遂げることになっても、ノアルとの思い出があれば…そう思った。ノアルに愛されたい。少しの間でいい。

 夢を見たかった。

「マリナ、来たぞ」

 レイがノックもせずに部屋に入ってくる。

 窓から視線を離し、室内のほうに体を向ける。また週末になってしまった。憂鬱な2日間が始まる。

 しかし嫌な顔は出来ない。彼の機嫌を損ねてはいけない。どんな暴力を振るわれるかわかったものじゃない。

 体を重ねるだけでも、マリナにとっては拷問だ。さらに暴力までも加わったら、気持ちの行き場がない。

「レイ様、お待ちしておりました」

 マリナはレイに近づくと、彼の胸の顔をつける。これがノアルだったら、どんなに心弾む時間になるだろうか。

 彼をノアルと思えば少し快楽を味わえるのだろうか。

 声が違う。温もりも違う。体つきも、性格も全てノアルとは正反対。

 この人はノアルじゃない。レイだ。傲慢で冷酷な男。

 私の好きな人じゃない。
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