春待つ花のように
 ノアルはこの男を見ると、目を細めた。見覚えがある。

 一番会ってはいけない男と出会ってしまった。もう誰にも力を借りないと決めて、あの日一人旅立つことを決意した気持ちが揺らいでしまいそうだ。

 10年前のあの日、過去を捨て、新しい人生を踏み出した。自分を知っている人間を捨て、一人で生きていこうと決めたのに。

 こんな所で再会してしまうなんて想像もしていなかった。

「カインか。どうしてここに?」

「ゼクスから聞きました。ここで待っていれば、会えると」

 また、ゼクス。余計なことをしてくれる。彼はきっと良かれと思ってしていることなのだろうが、ノアルにとっては大きなお世話でしかなかった。

「会ってどうする? 今更、何も出来ない」

「そうでしょうか? 皆、ノアル様の帰りを待っています」

 ノアルはカインの言葉も聞かずに、彼の横を通りすぎていく。カインは立ち上がると、ノアルのう後ろをついて来た。

「母上は元気か?」

「亡くなりました」

「…そうか」

「二年前に、ロマの手によって」

 カインの言葉にノアルは足を止めた。
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