春待つ花のように
 スラムで10年生活をしてきた。こうやって地道に頑張ってこれたのも、今いる仲間たちのおかけだ。

彼らと出会わなければ、きっと犯罪に手を染めて生活をしていたかもしれない。もしかしたら、スラムの生活に耐えられなくなり、昔の仲間のところに戻っていたかもしれない。

「何かあったの?」

 ローラが心配な面持ちでノアルの顔を見つめてくる。急に母親のことを聞いてくるなんて、少し彼らしくない。

「母が死んでいたんだ」

「え?」

「2年前に」

 ローラは、彼の意外な発言に瞳をパチクリさせた。

彼の口から身内の話を聞くのは初めてだ。彼はスラムに来たときも、それ以降も自分のことを話す人ではなかった。

他人の話を親身に聞き、的確な助言をしてくれる心強い人。そうずっと思っていた。でも本当は違うのかもしれない。

人には話せない苦労や辛さを経験していて、それが彼を強くたくましく見せているのかもしれない。

彼と体を重ねるようになってからそう考えるようになった。時々、ノアルは夜中にうなされていることがある。

体中に汗をかき、苦しそうにうめいている。きっとそれは過去のことを思い出し、夢で再現しているのではないか。

ローラはそんな風に思っていた。
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