春待つ花のように
「ノアルのお母さんってどんな人?」

「実際よくわからないんだ」

 ノアルは寂しそうに微笑むと体を起こす。遠い目をすると母親との記憶を思い出そうとした。

「え?」

「俺も母との記憶はあまりなくて…一緒に過ごした思い出とかあまりないんだ。でも母はいつも同じ本を読んでいた。そして心の強い人だった」

 最後に会ったときの母の笑顔を思い出す。

怒りと憎しみのあまり道を踏みはずしそうになった自分を止めてくれた。母だって大事な人を亡くした悲しみは同じなのに。

もしかしたら自分よりももっとずっと辛かったはずなのに。母は自分の前では毅然とした態度を崩さなかった。

「ノアルと一緒ね」

「え?」

「ノアルも心の強い人だわ。スラムでの暮らしを変えてくれた。私たちはノアルに助けてもらってばかり」

 ノアルは首を振る。自分だけの力ではない。

スラムで生活をしている皆が変えようと努力をしてくれたからだ。そうでなくては、荒んでいた生活から今のような暮らしにはなれなかった。
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