春待つ花のように
「皆、元気にしているか?」

「ええ。ノアル様は?」

「俺は元気だ。スラムで生活をしている」

 アンジェラは『スラム』という言葉を聞いた途端に瞳を大きく開けた。彼女の中には悪いイメージしかないのかもしれない。

 数年前までは確かに荒れていたが、今はそうでもない。もしかしたら、スラムでの生活に自分がなれてしまっただけなのかもしれないが…。

「スラムですって? 何でそんなところで…」

「いいところだよ。仲間と一緒に住んでいるんだ」

「そう…。あそこは治安が悪いって聞くけど…」

 彼女は心配そうな顔で言う。ノアルはにっこり笑うとお茶を飲んだ。

「親がいないからさ。何がいけないことで、何が良いことなのか。教えてくれる人がいないから荒れるんだ。確かに生活水準は低いし、貴族たちのように華やかさもない。だけど、人とのつながりは強いよ」

 アンジェラと目を合わせると、笑みを浮かべる。昔の自分を知っている人たちは皆、心配性ばかりだ。

 10年も離れて生活をしていたのだから、自分のことなど忘れててかまわないのに。
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