春待つ花のように
 突然、下の階が騒がしくなった。女性の声とミゲルの困った声が聞こえてくる。

 ノアルは聞き覚えのある女性の声を聞くと、顔色を変えて走って下に下りていった。

「ローラ?」

 ノアルが1階に下りると、ローラがミゲルに押さえ込まれていた。

「ノアル!」

 彼女はノアルを見ると嬉しそうな顔をする。

「ミゲル、彼女を離してくれないか」

 彼の言葉にミゲルは少し困惑をしながらも、ローラを解放する。手足が自由になった、彼女はノアルに抱きついた。

「ついて来たのか?」

 ノアルはローラの頭を撫でながら質問する。彼女は申し訳なさそうな顔をすると、黙ったまま頷いた。

『心配だった』そう彼女の心の声が聞こえてきそうだ。

 昔の仲間に会ったら、スラムには戻ってこないかもしれないという不安が彼女にはあったのだろう。仲間に会いに行く話をしたときも、不安そうにしていた。

「彼女?」

 アンジェラが階段の途中で足を止めて口を開いた。ノアルは、首を縦に振る。
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