春待つ花のように
 何も置いていない部屋。本当にこれで生活をしているのか、疑ってしまう。

 部屋はいつでも薄暗く、太陽の日差しさえ入ってこないような室内。床も壁も埃一つなく、綺麗に掃除されているが、どこかかび臭さが残っている。

 ベッドも布団もない。十畳ほどの部屋にあるのは、小さなキッチンといろいろな物が入っている大きなかごだけだった。

「申し訳ない」

 カインは小さな声でそう言うと、床に置いてある食事に手をつけた。

「こちらこそ。私のせいで、カインさんが職を失ってしまったのですから」

 ローラは悲しそうな顔で言うと、深々と頭を下げた。自分の見張り役となったカイン。

 一日、一緒にいるために仕事を辞めて、彼女の傍にいる。

 数日前に、カインが店に来て声をかけてきたときはすぐにノアルが迎えに来て、家に帰れると思っていた。

 こんな長期間になるとは思わなかった。薬屋の二階でノアルと彼の話を聞いていたときは正直イラついた。

 すぐに帰れると信じて、カインの誘いにのり着いて来たというのに、彼は自分のことを『預かる』というではないか。
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