春待つ花のように
 すぐに帰れないと思うと、店やノアルたちに迷惑がかかる。とくにイブには店を任せることになってしまう。

 それは申し訳なくて、心が張り裂けそうになった。

 しかし、カインにもそれなりの事情があり、『預かる』ということになった。

 それを理解したときは、『仕方ない』と思える自分がいた。

 ノアルの過去を知り、カインたちの野望を知っている。彼らとは同じ境遇を分かち合っているわけではない。

 全く関係のない人間だ。ノアルといくら親しくても、信用できるとは言えない。裏切る可能性だってある。

 彼だってこんなことはしたくないのだ。しかし、仲間たちの不安が、目に見えるのだ。

 ローラという人間がノアルやカインたちのことを知っているという事実に。いつ、その情報が外に流れて、命を狙われることになるのか。不安で仕方ない。

 薬屋にいるときに、何度も耳にした。『あの子は大丈夫なの?』『信頼できるの?』『殺したほうがいいんじゃない?』その言葉を聞くたびに、カインが仲間たちに説明をしていた。

 大勢の仲間がいるわけではない。ほんの数人。

 でも、彼らの結束は固い。そんな彼らに一人でも不安が出てしまえば、それが大きな裏切りにつながってしまうことだってありえる。
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