初恋の実らせ方
彩は戸惑う。
幼い頃からずっと啓吾くん、と呼び続けてきたのだから。


「ケイゴ。
言ってみ?」


啓吾が無造作に彩の顎に手をかけながら言う。


「ちょっと待って、何か緊張しちゃって…」


正直、啓吾の手が気になってしまってそれどころじゃない。


そんな彩の気持ちが分かっててからかっているのか、啓吾の親指は彩の唇をそっと撫でる。


「ダーメ、ほら言えって」


「啓吾くん…」


絶対に確信犯だ。
彩を困らせて楽しんでる。


だって、このいたずらそうな目は見たことがある。
―――英知と同じ目だ。


「呼び捨てしろってば。
はい、やり直し」


この間、弓道を教わったときも思ったけど、啓吾は結構スパルタだ。


彩は集中できなくさせる啓吾の手をどかして、


「待って。
ちょっと練習」


彼に背を向け、ケイゴ、と小声でつぶやいてみる。


それを見て、啓吾は吹き出しながら彩を羽交い締めた。


「わっ!啓吾…」


思わず呼び捨てした彩を満足げに眺めると、


「よくできました」


啓吾は彩の頭をくしゃくしゃと撫でる。


これ啓吾の癖なのかな。
そんなことを考えてると、


―――チュ。


不意に啓吾の唇が彩の額に当てられた。
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