初恋の実らせ方
「じゃあ兄貴忘れてるよ。
あいつ今朝早く家出て行ったもん」


今日の夜には帰ってくると思うけど、と英知は付け足した。
英知が言うには、侑治の知り合いに車を出してもらい、海釣りに出かけたらしい。


「嘘…」


「そんなくだらない嘘吐くか。
何だよ、兄貴とどこ行くつもりだったの?」


明らかににがっくりと肩を落とす彩を見て、英知は溜め息混じりに聞く。


別にどこへ行こうと約束していたわけじゃない
から啓吾もすっかり忘れてしまったんだと思う。
だけど、彩が密かに楽しみにしていた待ち合わせが、啓吾にとっては取るに足らないものだと気付かされたようでショックだった。


答えられないくらい落ち込む彩を見るに見兼ねて、英知はその手を取る。


「仕方ねぇな…。
俺が一日兄貴の代わりになってやるよ」


手を引っ張りながら、ずんずん進んで行く英知に彩は待って、と声をかけた。
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