揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊦
たった7歳の時に本当のお母さんと死別したという彼。

甲子園の話を聞いて、彼の野球への思いの強さの訳を知ったような気がした。


「そして、俺が3年の時。父さんは自分の部下だった今の母さん…まどかさんと再婚したんだ」


“まどかさん”


その言葉が引き金となり、私の心はまた落ち付きを無くし始めていた。

あのビデオの中で彼が艶っぽく呼んでいたのを、自然と思い出してしまう。


「だけど、去年…父さんが交通事故で死んじゃってさ。まどかさんと2人っきりになってしまったんだ。両親は共に身寄りが無かったから、俺の家族はまどかさんしかいないんだよ」


悲しそうな表情の彼に、いつしか目を奪われてしまっていた。

逸らしていたはずの視線が、がっちりと絡み合っている。


「ホントの母さんの病気の為に、大きな病院のある市に引っ越してたんだけど。父さんが死んだ後に、こっちに戻って来たんだ。まどかさんの実家は有名な会社を経営しててさ、あのマンションも彼女の父親が建てたモノなんだよ」


少しずつ語られていく真実。

とりあえず今の私にできるのは、彼の言葉を一句たりとも聞き逃さないようにするだけ。


「父さんが死んで、すぐぐらいだったよ。まどかさんに…いきなり迫られたのは」


忌々しいといった表情の彼を、私はただ黙って見ていた。

早鐘の様な心臓の音を抑えるように、ぎゅっと服の上から胸の辺りを掴みながら。


「初めて会った時から、俺の事を狙ってたんだってさ。母さんの葬儀で会った時、まだ小1だった俺を…20歳過ぎた大人が男として見てたんだよ」


吐き捨てるような彼の言葉は、乾いた笑いを伴っていて。


私はというと。

想像を遥かに超えた彼の生い立ちに、どんな言葉を掛ければいいのか分からないでいた。
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