冬うらら 1.5

 何気なく、洗面所の鏡を見たのがいけなかった。

 そこに自分の上半身が映っていたのは分かった。

 何も着ていないのも知っているし、ずっと付き合ってきた身体なのだから、大体のことは分かっているつもりだった。

 しかし、首筋、鎖骨、胸、腕。

 跡が残っているところは全て、カイトの唇が触れて強く吸った、という証拠なのだ。

「あ……あ…」

 その光景が、想像とはいえビジュアルで頭の中に甦ったのだから、物凄い騒ぎになってしまった。

 メイは、鏡から逃げるようにお風呂場に駆け込むと、シャワーのお湯を出した。

 強く身体を洗うのだが、勿論、石鹸ごときではその跡は消えないのだ。

 そう言えば。

 昨日一緒にお風呂に入った時に、カイトは言ったではないか。

『それだったら……洗っても消えねぇ』と。

 確かに、メイは彼のしるしが欲しかった。

 カイトがいない間も寂しくなくてすむように―― そう願ったからだ。

 しかし。

 多すぎだ。

 これでは、襟ぐりの開いた服は着られない。

 今が冬で本当によかった。

 メイは、喜ぶべきなのか困るべきなのか、すごく複雑な気持ちのままで、身体を洗い流したのだ。

 あのカイトが、いっぱい自分を好きだと言ってくれた証のようで、それは恥ずかしくて嬉しかった。

 よそのカップルも、みんなあんな風なのだろうかと、しばらく洗い場で考え込んでしまった。

 ハルコとかソウマとかも―― 思いかけて、メイは頭がシュゥと音を立てたのが分かった。

 自分が、何て失礼でハレンチな想像をしようとしていたかに気づいたのだ。

 慌てて身体を洗い終わるとシャワーを止めて、脱衣所に戻る。

 タートルネックのシャツを着て、作業のできるジーンズに着替えた。

 バカなことを考えているヒマはなかった。

 寝坊した分を、一生懸命の家事で取り返さなければならないのだ。

 朝ご飯の分は、夕ご飯でカバーしようと思った。

 おいしい夕ご飯を用意して、カイトに『うめぇ』を言ってもらいたかったのだ。
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