冬うらら 1.5

「あら、元気そうね」

 車の音がしたから、まさか、と思ったら。

 ハルコが現れたのだ。

 午後3時1分前だった。

「ハルコさん…」

 久しぶりに会ったような気がして、メイはちょっと驚いた声になってしまった。

 本当は月曜日に会っているのだから、わずか2日ばかりなのだが―― 間に、いろんなことがサンドされてしまったために、随分長く感じられた。

「あの、その節は…」

 月曜日のドタバタを思い出して恥ずかしくなり、妙にかしこまって挨拶をしようとすると、ハルコがクスッと笑った。

「いきなり改まらなくてもいいのよ。はい、これおみやげ」

 どう見ても、ケーキが入っているとしか思えない白い箱を差し出される。

 いつもこうやって、彼女にいただきものばかりをしているような気がした。

「ありがとうございます」

 本当に借りを作ってばかりである。

 いつか恩返しが出来ればいいのに、とメイは思ったのだが、何でも一人で出来そうなハルコの手伝いを、自分がきちんとこなせそうにはなかった。

 うーん、頑張らなくっちゃ。

 心の中で、自分に苦笑いを浮かべる。

「それじゃあ、お茶でもいれますね」

 とりあえずは、出来ることからだ。

 お茶くらいなら、メイにも振る舞える。

 ダイニングの方に案内しようとすると、ハルコがちょっと考えるような素振りをした後。

「まあ…ケーキ一つくらいなら大丈夫よねぇ」

 彼女も苦笑いだった。

 そう。

 ハルコは妊婦で、お医者さんに体重制限をされているようだった。

 妊娠も大変である。

 あ。

 しかし、それは他人事ではなくなるかもしれないのだ。

 メイは、自分の考えに赤くなった。

 カイトのあの様子からすれば、そうなる日が遠くなくてもおかしくないのだ。

 彼女は、急ぎ足でハルコの先を歩きながら顔を隠した。

 見つかってしまうと、きっとどうしてか聞かれてしまう。

 しかし、答えられないようなコトを考えてしまったのだから、聞かれるのは困る。

 だから、慌てて逃げたメイは正解だった。

 無事、ごまかせたのだ。
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