愛かわらずな毎日が。

「………く、もと…さん、」

そっと手を伸ばし、福元さんの腕に触れた。

愛おしいという感情が、福元さんの腕に置いた右手に集中してビリビリと震えてる。


「………っ、て、」


あの人とどうだったとか。

そんなの、どうでもよくなるくらい。

気にならなくなるくらい。


「……ぎゅって、……して」


何も言わずに私の肩を抱き寄せた福元さん。


知りたい。知りたくない。

その間で揺れる私の肩を、きつく抱きしめてくれた。


福元さんの匂いが。温もりが。

ゆっくりと私の中に流れ込んでくる。


目も、のども、吐き出す息も。

私のぜんぶが熱くなる。


そうか。


福元さんが抱きしめているのは。

「過去」ではなく「現在」


ここに流れるのは、福元さんと私の。


ふたりの時間。


そうだよね。

過去の恋愛を、なかったことにはできないし。


だからといって、「忘れて」なんて言葉は使いたくない。

「気にしない」「気にしてない」なんて嘘もつけないし。

この先ずっと、過去に嫉妬しながら過ごしたくはない。

それなら。

不器用は不器用なりに。私らしく。

吐き出して。さらけ出して。


福元さんはきっと、いつものように受け止めてくれるはずだから。

私も。

福元さんのことを。福元さんの過去ごと抱きしめよう。

この先も。福元さんの隣にいられるように。

ずっと一緒にいられるように。


一歩、踏み出してみよう。

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