愛かわらずな毎日が。

見てはいけないものを見てしまったような、そんな気分になって。

跳ねた心臓の動きが徐々に速くなる。


だって。

いつも目にする笑顔の福元さんは、何処にもいない。


腕組みをしてパソコンの画面を見つめる姿。

こめかみに人さし指をあてて目を閉じる姿。

天井を見上げ、大きく息を吐き出す姿。


苦痛に耐えているようにも見える、そんな真剣な表情をした福元さんを。


私は知らない。


『部長って響きには憧れるけど、福元さんを見てると、なんかなぁ…。
いろんなものを犠牲にしなくちゃいけないと思うと、俺も今のままで充分かも』

『福元さんだけじゃなくて。男の人は誰だって、多少の覚悟はしてると思う』


頭の中に残されていた言葉が、私を混乱させる。


犠牲?


ちがう。

福元さんは、井沢たちとはちがう。


そんなこと、思ったりしない。

ちゃんと覚悟して。


ううん。


ほんとに?

ほんとに、そうだと思う?


いつも目にする福元さんの笑顔は、「覚悟」や「余裕」の表れなんかじゃなくて。

「強がり」なのかもしれない、って。

そう考えることだってできるんじゃない?


「…………」


一瞬でも気を抜いたら、書類とにらめっこしている福元さんの姿を、哀れんだ目で見てしまいそうだ。


私はドアノブにかけていた手を離すと、静かにその場を離れた。

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