岸谷くんのノート
「ダメ。」
即答する岸谷くんの眉間にシワが増える。
正直怖い。
怖いけど。
「…ダメ?」
「ダメ。」
「どうしてもダメ?」
「…ダメ。」
「なんで?」
どうしても、
どうしても、もう一度確かめたいのだ。
必要以上に食い下がり、ノートをギュッと胸に抱く灯に岸谷くんは、あぁぁ…と何故か下を向いて頭を抱えた。
「…。」
「…。」
しばらく黙ってしまった岸谷くんは、ふと顔を上げ、真剣な目をする。
その目があまりにも綺麗で灯は思わずドキッとした。
1歩、2歩と近付く岸谷くんに、灯はノートを更にギュッと抱き締める。
「…いいよ。」
「…え、」
目の前にしゃがみ込む岸谷くんの頭を見ながら、灯は固まった。
岸谷くんはそっと灯からノートを取って、その場でペラペラめくり始める。
「いいけど、…そのかわりもうここで見て。」
近い。
息がかかるほど近い。
心臓、痛い。