雪人

 地下トンネルが完成し、何度目かの潜入をしたときの話。
 王都グライドアースの西にあたる貧困街や娼婦館の一角に、質素ながら大きくもなく小さくもない酒場があった。その酒場は貧しい人々にとって休息できる場所であり、一日の嫌なことを忘れられる場所でもあった。騒がしいその中のカウンターに座る、黒い外套を羽織った二人の男女は、気楽に酒場のマスターに話し掛けた。

「マスター、いつもの頼む」

「またですか、ミフレ。お酒も程々にしてくださいね。じゃないと、介抱する僕の身にもなってくださいよ」

「まあそう言うな、ダント。ここは酒場だぞ。酒を飲むのは当たり前なんだ」

 ダントの肩に手を置き、ミフレは可愛らしい顔だが中々のおじさん臭い台詞を言った。肩に手を置かれたダントは優しく手を払い、呆れたような視線を目の前の相手に送る。
いったいこの人は何を考えてるんだ。この前も同じような事を言って酔い潰れたではないか。それを毎回介抱する自分はなんてお人好しなんだろうと、損な性格に育ってしまった自分に後悔しながらカウンターに肘を付き額に手をあてる。それを見たマスターは愉快そうに笑った。

「兄ちゃん、あんたも毎回苦労しとるようだな。しかしだな、喋り方は男勝りだが可愛いお穣ちゃんの介抱なんだ、野郎を介抱するよりは断然マシだろ」

「マスター、それは褒めてるか貶してるかどっちなんだ?」

「どっちもだ!」

 マスターは、ガハハと豪快な笑い声を上げ、手に持つジョッキに酒を注ぐ。
 ミフレはマスターに何か言いたそうな目を向けるが、こんな図太そうな神経の持ち主相手に何を言っても無駄だと思い、視線をジョッキへと移す。ジョッキの中に目一杯入った酒が目の前に出され顔が緩む。
 ミフレが酒を飲むのを横目で見たあと、マスターに出された湯気が立ち上るコーヒーをダントは一口含むんだ。すぐに暖かかく濃厚な味が口の中に広がる。その味にほっとするのを感じながら、ダントはカップをカウンターに置いた。そして、湯気で曇った眼鏡を拭きマスターに尋ねる。

「この頃、何か変わった所はなかったですか?特にお城とか」

「いや、ここの所何もないな。変な行動してみんな王の近くにいる魔術師から目を付けられたくないしな」

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