雪人
酒場の入り口に息をきらしながら立っている中年の男性の言葉が、先程まで騒がしかった酒場に静けさをもたらした。静まり返った酒場で聞こえるのは外からのザーザーと雨の音だけが静かに響く。誰もが不安な表情でお互いを見て、処刑という二文字の言葉に重みを感じていた。
「いったい誰が殺されるんだ……?」
静寂が支配する中、中年の男性に近寄ったミフレがみんなの聞きたいことを代表して問い掛けた。酒場にいる全員の視線が中年の男性とミフレに集中する。
中年の男性は息を整え、ゆっくりと口を開いた。
「物資馬車に隠れてグライドアースに潜入しようとした男性だ……城の前にある広場で今から行なわれるらしい……」
沈んだ口調で中年の男性は肩を震わし俯いてしまう。またなのか、と思わず呟きたくなる言葉を酒場にいる全員が抑えた。ミフレは悲観になる感情を払拭し、急いでカウンターの上に金を置いてダントに話し掛ける。
「ダント行くぞ!」
「ちょっと待ってください!あ、それじゃあまたマスター」
マスターに一礼してダントは酒場から雨の中へと走っていったミフレの後姿を急いで追い掛けた。ダントが酒場を出た先に、雨が降り注ぐ中ミフレが待っていた。その目は早く来いと訴えている。やれやれと思いながら待ってくれたミフレに駆け寄り、並んで城の前にある広場に走って向かった。
暗い雨雲から落ちる水が髪の毛を濡らし、そこから零れる雫がポタポタと顔に落ちるのを気にせず、二人は西から東に走る。貧困街の路上には小さな子供や不精髭を生やした大人まで生活しているため、二人の姿に目を向けた。そんな視線など気付かないほど今の二人は目的地へと急いでいた。
やっとのことで中央通りに着いた二人はここから一直線に見える遠く離れた城の前にある広場の方を向く。一メートル位上の高さに処刑台が置かれてあり、甘いものに群がる蟻のように人がその周りを囲んでいるのが遠くからでもわかる。
「すごい人の数ですね。雨の中だというのに……」
「そうだな。……みんな目に焼き付けようとしてるんじゃないか……。こんな悲しい処刑があったことを……それと、もう二度とないようにと……」
「そうかもしれませんね……。ここからだと、歩いていけば間に合いますね」