雪人
 でも、それよりも多くの人が倒れていたなら不自然なのだが、驚くよりも何故そうなったかを知っていて納得してしまった二人をもし人が見ていれば些か変であっただろう。
 幸い夜が更けるまでもうしばらくあるから発見されるまで時間があった。
 後ろへ視線を巡らしていた二人に剣呑な声が耳に飛び込んできた。
「おい、そこの奴! 俺が女に見えるか!?」
 二人が急いで振り返ると、貧困街と貴族街とを繋げるゲートの前で、ルイが一人の警備兵を睨み付けていた。
 慌てた二人は急いでルイと警備兵の間に愛想笑いを顔に張り付けながら割り込んだ。
「すいません、この子ちょっと酔ってて」
「そうなんだよ。それじゃアタシたちはこの辺で」
 エレミールがルイの片方の腕を取り立ち去ろうとしたら、もう片方の腕を警備兵が掴んだ。
「ちょっと待った。どうだい? 仕事が終わったらみんなで遊ばないか? 美女さ――ぶべ!」
 二人が止める間も無い一瞬のことだった。
 最後まで言葉をいい終える前に、腹に強烈なパンチを食らった警備兵が骨が折れる音を立て、体をくの字に曲げて凄い速さで、貴族街にある豪邸な屋敷へとガラスを突き破って大きな音を響かせながら見えなくなっていった。
 清々しい表情で余韻に浸かっているルイと顔面蒼白で地面に崩れるように座るエレミールとミフレ。
 今の騒ぎを聞きつけた他の家々から明かりが点灯していく。
「何のためにこそこそ潜入したんだ……
 今までの苦労があっけなく崩れていく自体にミフレは現実逃避したくなってきていた。
 事態を一瞬で飲み込んだエレミールがミフレを立ち上がらせる。そして腕を引きながら走りだし、ゲートを越えるときに空いている手でルイの腕も掴み貴族街へと走っていった。
 10分位走り終えてゲートから離れた頃、朝方で人が居ないはずの場所に一人のこの通りに似つかわしくない質素な服を着た女性が、誰かを待っているのかのように佇んでいた。
 三人は立ち止まり、相手の様子を窺う。その出方に女性が一歩前に出て口を開いた。
「待ってたわ、疾風の銀狼。ついてきて」
「その声は……」
 聞き覚えのある声が記憶を刺激してルイに何時会ったかを思い出させた。
「あの時の女性か」
 事態が把握できず顔にクエスチョンマークを浮かべるミフレとエレミール。
< 159 / 216 >

この作品をシェア

pagetop