雪人
 貴族街の中でも一際目立つ豪華な屋敷の一室に招かれた三人はそわそわと何処か落ち着きなく部屋の中を見回していた。
 迎賓室。客をもてなす部屋。
 どこの誰が作ったか分からない骨董品の壺や埃一つとして見当たらないほどの綺麗な家具など、三人にとっては普段見ることのできないものばかりだった。
 アイボリー色の横幅が大きなソファーにもたれ掛かり、忙しなく動かしていたエレミールの目がある一点で止まる。
「ねぇ、あれ見て」と指差した。
 指の差している方向をミフレが追っていくと、そこには色鮮やかに描かれた可愛らしい犬の画が飾られていた。
 その犬は小さな躰で丸い尻尾に後ろ足だけで立ち、前足を椅子の座る部分にのっけて青いボールを必死に取ろうとしている場面だった。
 一見何の変哲もない画だが、ただ、この場所に飾られているのには違和感があった。なぜなら、唯一この画だけが周りに飾られている風景画とは異なっていたからだ。それが何を意味するのかが分からないが、何しかしらの理由はあるだろう。
 ルイは頭の片隅でそんなことを考えていた。
 犬の画に癒され顔がふにゃけている二人を見つつ、この屋敷に連れてきた人物が何時になったら来るのかルイが苛立ち始めた時、ガチャと扉の開く音が静かな部屋に響いた。
 扉から現れた人物は先刻の質素な服を着た女性とは見違える程綺麗に着飾っていた。淡いピンク色のドレスを揺らしながらゆっくりとした足取りで三人の前に立ち止まり、ドレスの両端を掴んで優雅にお辞儀をする。
 その立ち振る舞いと気品漂う雰囲気に見惚れる二人と興味無さげに視線を逸らす一人。
「そんな礼儀はいらない。で、あんたがここに連れてきた理由はなんだ?」
 ルイの問い掛けに答える前に向かいのソファーへと優雅に腰を下ろす。
「邪険にしないで。貴族に生まれたからには礼儀を重んじないといけないの」
 刺のある口調ではなく、何の感情も籠もらない声で整った口から吐き出された。
「アタシはあんたのことを信用してないからな」
 今の女性の口調が気に入らないのか、喧嘩腰の態度でミフレが腕を組んで貴族の女性を見据える。
「信用するかしないかはそちらの自由よ。私が貴方達を招いたのは、こんな言い合いをするためじゃないわ」
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