雪人
 呆れたような声音や視線でエレミールを見やった後、レイディアに向き直り名前を名乗る。
「俺はルイ。名前だけでいいだろ」
 あまりにもぞんざいな言い方だった。それに気分を害するわけでもなく、そう、とレイディアは相槌をうつだけで気にしている様子はなかった。
 お互いの名前を知ってやっとのこと話が進むと思われた、が、またしても横槍が入る。
「アタシを出せーー!」
 静かにしていたミフレが急に騒ぎだした。ドンドンと、球体を叩いて喚きだした。もちろん、使用者以外は聞こえない。でも、ルイには口の動きで何を言っているかは、わかってしまう。所謂、読唇術というやつだ。
「出さないつもりならこんな壁、ぶっ潰してやる」
 到底乙女とは掛け離れた言葉遣いを披露するミフレに、ルイが淑女の嗜みを覚えてほしいと思ったのはここだけの話だ。
 魔力を集めだして物騒なことをしだす前に、ルイは目でエレミールへと合図する。
「キャンセレーション」
 静かに紡がれた言葉に半透明な球体が揺らいで反応し、忽然と最初から何もなかったかのように消え去った。中に閉じ込められていたミフレは、突然のことで反応できず、そして重力に逆らえるわけもなく、地面へと落下する。
「きゃ!」
 以外にも乙女らしく可愛いらしい声を出した。不意を突かれると女性の反応をするらしい。
 立ち上がり、ドスドスと地団駄を踏むような勢いで歩み寄っていく。
「アタシの身体が傷物になったらどうするんだ!」
 何を言うのかと思えば、一応は女性らしく気にしているような言葉だ。
「いい加減に静かにしろよ」
「ミフレちゃん、少しの間黙ってて」
 二人から同じことを言われ、さすがに聞き分けが悪いと思い、バツが悪そうな顔をする。元居たソファーへと腰を下ろした。
「もういいかしら?」とレイディアの淡々とした物言いに、
「ああ」とルイが頷く。
 こうしてやっと本題に入ることができたのであった。


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