雪人
「私は魔法を得意ではない。魔法なら貴公のほうが分があるだろう。なら、公平に剣技だけで勝負するわけにはいかないだろうか」
 馬鹿げた話を剣と一緒に投げ掛けた。
「面白いな。それ、受けて立つよ」
 ルイは剣を受け取り、鞘から刀芯を抜き去った。一度、二度剣の感触を確かめるために素振りをする。鞘は左手に持ったままだ。
「受けたことを後悔させてやろう。そして――」
 ベルライズも鞘から刀芯抜き去った。鞘を横に投げつけ、鍔は右手を上に左手を添えて、刄を横にねかせる。
 腰を軽く下げ、右足を後ろに少し下げた。
「姫を守る!」
 決意を秘めた瞳が開いた。そして、駆けたのだった。
 駆けるベルライズの刄が標的との距離があるにもかかわらず、滑るように振りぬかれた。続いて、円を描くように切っ先が走る。これら全ては、常人には見ることができない速さで行われたのだ。
 振りぬかれた刄尖から空気が振動し、空間に歪みが生じたような揺れる不安定な丸い固まりが、ルイへと迫る。
「何か」が来るのをルイは感じ取っていた。ただ、その「何か」は、微かに景色を歪まさせるだけで、どういう効果があるのかわからない。わからないが故、立ち向かわずにルイが避けたのは功を奏した。
 「何か」が、ズバッと壁を綺麗に刳り貫いた。壁には丸い跡が残っている。
「……なんだ今の技は……」
 見たことの無い剣技の残痕をルイは訝しげに見た。刳り貫かれた時に衝撃で塵すらも残らず、消し去っている。物質を分子レベルまで分解したような変な技だ。
「よそ見をするのは関心しないな」
 ルイの横から剣が伸びてきた。キィン、と金属音が軽快な音を鳴らす。お互いの剣が衝突した。
「よそ見してるわけじゃない。技の特性を観察してるだけ、さ」
 拮抗する剣を前に振り抜く様にして弾き返した。ベルライズもつられて後ろへと下がる。
「先程の技がそれほどに気になるか」
 ベルライズは丸く刳り貫かれた壁を一瞥し、視線をルイに向けた。若いのに弱い魔力の自分でも感じるほどの強大な魔力。剣の腕にしても構えの隙の無さにしても中々やる。それに何故だか不思議な気分だ。

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