雪人
 一、二階ホールではエレミールとミフレの激しい戦いが始まった。
 手摺りに上っていたミフレはポケットの中からグラブを取出し、両手にギュッと嵌めた。そして、高く跳び上がり天井に足を掛けて、全身に茶色い膜を覆ったミフレがブロンド髪女性へ握り拳を前に突きだし急降下する。
 バンッと小規模な爆発音が鳴り響き、綺麗な赤い絨毯に小さなクレーターが生まれた。舞い上がった粉塵の影から飛び出す二人の姿。
「危ないわね、そのパンチ」
 破壊力のあるパンチをブロンド髪女性は、なんとか避け、離れたミフレを見やった。髪に紛れ込んだ細切れの破片を細い指で取り払う。
「よく避けたな、年増」
 ミフレは青色のグラブを握ったり広げたりして嵌めた感じを確かめ、楽しげな調子で言った。
「失礼な女ね、私はまだ二十歳よ! 名前はミューレ」
 不快を顕にした表情でミューレと女性は名乗った。綺麗な眉がへの字に曲がる。
「アタシより年下なんだな」
 人は見かけによらないわねとミューレは思う。少なくとも年下だと思っていた相手が年上だと知って、自分がそんなに老けているのかと眩暈を覚えた。
「よそ見してていいのか、よ!」
 一飛で懐に入り込んだミフレが腹目がけて拳を突き出した。拳に当たったからなのかわからないがミューレが後ろへと勢いよく飛ぶ。
「やるな……」
 だが、ミフレの顔は驚嘆ともとれる表情をしていた。
 ミフレの言葉が裏付けているとおり、拳は当たっていなかった。拳に当たったかのように後ろへと跳んで回避したのだ。
「でも、簡単に倒せたら面白くないもんな」
 愉快そうにミフレが笑った。茶色い瞳が嬉々として輝く。
「………」
 ミフレを見つつ辺りを警戒するミューレは、姿が見えなくなったエレミールを探そうとした。しかし、気配がない上にどこに潜んでいるかわからないことしか、掴めない。
「まあいいわ。あんたから倒すことにするわね」
 石で出来ている地面に手を押し付け、魔力を媒介に地面から鋭利な鎌を作り上げた。棒の部分を掴み、弧を描いた刄をミフレに向ける。
 ミフレはそれを一瞥すると、腰を低く落とした。
「第一皇拳――裂臥掌」
 全身に揺らいでいる氣を拳一ヶ所に集中させて、ミフレが地面を突いた。ドゴンと轟き、振動が地面に走る。
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